睡眠サプリの成分表示に「アピゲニン」という名前が並ぶようになりました。カモミールの花に含まれるフラボノイドの一種です。そして量の表示は、多くの製品が50mgでそろっています。

この50mgという数字がどこから来たのか、そして人でどこまで調べられているのかを、出典をたどって整理します。

アピゲニンはカモミールの花に含まれる成分です。お茶として飲む場合と、カプセルで飲む場合で、体に入る量のそろい方が変わります。
アピゲニンはカモミールの花に含まれる成分です。お茶として飲む場合と、カプセルで飲む場合で、体に入る量のそろい方が変わります。

「寝る前に50mg」はどこから来た数字か

出どころは、米国スタンフォード大学の神経科学者が運営するポッドキャスト Huberman Lab のニュースレターです。睡眠のための生活習慣をまとめた回で、就寝30〜60分前の選択肢としてマグネシウムスレオネート145mgまたはマグネシウムビスグリシネート200mg、アピゲニン50mg、テアニン100〜400mgを挙げています [1] 。

同じニュースレターは、そのすぐあとに「まず1つ(あるいはゼロ)から始めて、必要に応じて1つずつ足す」とも書いています [1] 。ここは読み飛ばされやすいところです。

研究論文ではなく、一人の研究者が自分の使い方を書いた文章です。それでも、売り場に並ぶカプセルの数字は、ここから広まりました。

話の出発点は、1995年のマウスの実験

アピゲニンと眠りの話は、1995年にカモミールの花を調べた研究から始まっています [2] 。

研究者たちはカモミールの抽出物を少しずつ分離しながら、脳の特定の場所につく成分を探しました。その場所は、睡眠薬や抗不安薬として使われるベンゾジアゼピン系の薬がつく部分でした。

かみくだくと、こうなります。GABAという物質は、神経の高ぶりをしずめる側の伝令です。その受け皿には、GABA本人がすわるくぼみのほかに、別のくぼみがもうひとつあります。そこに何かがはまると、GABAの伝令が届いたときの反応が強めに出ます。ベンゾジアゼピン系の薬は、この別のくぼみを使う薬です。取り出された成分は、そのくぼみに弱く腰かけていました。それがアピゲニンでした [2] 。

ただし、この論文の行動試験の結果は、いま語られている使い方とはずれています。ベンゾジアゼピン系と同じくらいの量では、マウスに出たのは不安に関わる行動の変化で、眠くなる様子や筋肉がゆるむ様子は出ませんでした。投与量を10倍にしてはじめて軽い鎮静がみられ、動きまわる量が26%、探索行動の指標が35%下がっています [2] 。

人で試されたのは、アピゲニン単体ではなくカモミールのエキス

人を対象にした試験はあります。ただし飲んでもらっているのは、カモミールのエキスです。

2011年の試験は、6か月以上続く不眠の34人にカモミールエキス270mgを1日2回、28日間とってもらいました。あらかじめ主要な評価項目と決めていた睡眠日誌の指標は、総睡眠時間・睡眠効率・寝つくまでの時間・途中で目が覚めている時間・睡眠の質・目が覚めた回数のいずれも、プラセボとの差がつきませんでした。日中の機能については、カモミール側にわずかな差がみられたものの、統計的な差には届いていません [3] 。

この試験で使われたカプセルの中身を見ると、量の関係がはっきりします。1カプセルは乾燥エキス90mgで、アピゲニンは1カプセルあたり2.5mg以上と規格化されていました [3] 。270mgは3カプセルぶんなので、1日2回で6カプセル。アピゲニンに換算すると1日15mg以上ということになります。

もう少し広く見ると、2019年に12件の比較試験を集めた報告があります。睡眠の質の指標はプラセボより良かったと報告されている一方、不眠そのものを評価した試験は12件のうち1件しかなく、その1件では不眠の重症度の指標に差が出ていません [4] 。

つまり、いま人で確かめられているのはカモミールのエキスであって、単離したアピゲニンを飲んで睡眠を測った試験は、公開されている範囲では見あたりません。

飲んだアピゲニンは、どれだけ血液に届くのか

アピゲニンがどれだけ血液に届くかを人で測った研究は、2006年のものがあります。健康な成人11人にパセリを体重1kgあたり2g(アピゲニンにして平均65.8マイクロモル)食べてもらい、血液と尿を追いかけました [5] 。

結果は2つの点が参考になります。

ひとつは量です。血中の最高濃度は平均127ナノモル毎リットルでした [5] 。1995年の実験でアピゲニンが受け皿のくぼみにつく強さを測ったときの目安は4マイクロモル毎リットルでした [2] 。これは4000ナノモル毎リットルなので、人の血液で測られた濃さのおよそ30倍にあたります。試験管の中で受容体にふれる濃さと、人の血液で測った濃さは条件が違いますが、桁がひとつ以上違うことは頭に置いておいてよいところです。

もうひとつはタイミングです。血中濃度が最高になったのは、食べてから平均7.2時間後でした [5] 。24時間の尿に出てきた量は、食べた量の0.22%です。7時間後という遅さは、「寝る30〜60分前」という飲み方とは噛み合いません。

ただし、この試験で食べたのはパセリに入っている配糖体(アピイン)で、カプセルのアピゲニンとは吸収の道すじが違います。単離したアピゲニンで同じことを人で測った報告は、こちらも見あたりませんでした。

お茶に入っている量は、製品でそろっていない

「サプリではなくカモミールティーでいいのでは」という考え方はあります。カモミールの花の主なフェノール成分は、たしかにアピゲニンとその配糖体です [6] 。

ところが、お茶に入っている量は製品でかなり変わります。2025年に市販のカモミールティー22製品を測った研究では、総フラボノイド量が0.17〜0.55%、精油量が1kgあたり0.75〜5.34mLと幅がありました。欧州薬局方の基準(1kgあたり4mL以上)を満たしたのは、花そのものを使った製品5製品だけです。ティーバッグでは、アピゲニン7-グルコシドの量が薬局方の基準に届かないものが多かったと報告されています [7] 。

同じ「カモミールティーを1杯」と言っても、そこに入っているアピゲニンの量はそろっていません。カプセルの50mgという数字がはっきりしているのは、成分を取り出して測ってあるからです。数字がそろっていることと、その数字が試されていることは、別の話になります。

日本の睡眠は、いま数字でどうなっているか

サプリの話から少し離れて、土台の数字を見ておきます。

令和5年の国民健康・栄養調査では、ここ1か月間に睡眠で休養がとれている人の割合は74.9%でした。平成21年からの推移でみると、有意に減っています。1日の平均睡眠時間が6時間未満の人は男性38.5%・女性43.6%で、男性の30〜50歳代と女性の40〜60歳代では4割を超えています [8] 。健康日本21(第三次)は、睡眠で休養がとれている人の割合(年齢調整値)80%を目標に掲げています [8] 。

4人に1人は、睡眠で休養をとれていないと答えている計算です。寝る前の光やカフェイン、就寝と起床の時刻など、寝つきが気になるときに見直せるところは、カプセルを開ける前にいくつかあります。

次の一歩は、まだマウスのところにある

アピゲニンの睡眠研究がまったく動いていないわけではありません。2026年には、マウスにアピゲニンとマグネシウムを組み合わせて与えた研究が出ています。通常のマウスで44%、カフェインで眠りを妨げたマウスで32%、薬剤で不眠にしたマウスで37%、睡眠時間が長くなり、それぞれ単独より組み合わせのほうが長かったと報告されています [9] 。組み合わせという発想は、冒頭のニュースレターと同じ形です。

対象はマウスです。人で同じことが起きるかどうかは、これから確かめる段階にあります。

2024年に睡眠のサプリを整理した報告が扱ったのは、バレリアン・ホップ・カバ・ジャーマンカモミール・チェリー・トリプトファン・テアニン・メラトニン・マグネシウム・亜鉛でした [10] 。この一覧に、アピゲニン単体は入っていません。名前が売り場に並ぶ速さと、研究の一覧に載る速さには、これくらいの差があります。

買う前に見ておくとよいこと

  • 50mgという表示の出どころはニュースレターです。人での睡眠試験で使われた量ではありません [1] 。
  • 人での試験があるのはカモミールのエキスです。アピゲニン単体で睡眠を測った試験は見あたりません [3] [4] 。
  • お茶として飲むなら、ティーバッグより花そのものを使った製品のほうが成分の量はそろいやすいと報告されています [7] 。

成分そのものの解説はアピゲニン、寝つきとの関係で報告されている内容は寝つきとアピゲニンにまとめました。もとの植物のほうはカモミールと寝つきとカモミールです。同じニュースレターに並ぶマグネシウムについては、マグネシウムサプリの「種類」で何が変わる?で形ごとの違いを扱っています。

50mgという数字は、研究より先に決まりました。研究がこの数字に追いつくとしたら、単離したアピゲニンを人に飲んでもらって睡眠を測る試験からになります。それが出るまでは、ラベルの50mgは「よく使われている量」であって「試された量」ではない、と読み分けておくのが正確です。カモミールを2〜3分湯にひたして飲むことは、その試験の結果を待たなくても今晩から始められます。