米誌『TIME』は2023年2月、グリシン酸マグネシウムを「TikTokの新しいお気に入りの睡眠サプリ」として取り上げました [1] 。それから3年、日本の通販サイトにも「グリシン酸マグネシウム」という売り場ができ、酸化マグネシウム・クエン酸マグネシウム・L-トレオン酸マグネシウムと、種類を指定して買う人が増えています。

同じ時期に広まったのが「酸化マグネシウムは吸収率4%だから選ぶ意味がない」という言い方です。この4%の出どころをたどると、吸収を大きく左右しているのは種類ではなく1回にとる量だ、という研究に行き当たります。

サプリのマグネシウムは、必ず何かの相手と結びついた化合物として作られています。相手が酸素なら酸化マグネシウム、グリシンならグリシン酸マグネシウムです。
サプリのマグネシウムは、必ず何かの相手と結びついた化合物として作られています。相手が酸素なら酸化マグネシウム、グリシンならグリシン酸マグネシウムです。

「4%」の出どころは、2001年の小さな研究

数字のもとは、市販されている4種類のマグネシウム製剤を比べた2001年の研究です。健康な人に1日およそ21mEq(元素マグネシウムでおよそ250mg)を飲んでもらい、尿に出てくるマグネシウムの増え方から、どれだけ吸収されたかを推定しました。酸化マグネシウムで吸収されたと推定される割合は4%と低く、塩化マグネシウム・乳酸マグネシウム・アスパラギン酸マグネシウムはそれより高く、互いに同じくらいだったと報告されています [2] 。

つまり「4%」は、酸化マグネシウムを限られた条件で測定した結果の数字です。この数字が「酸化マグネシウム=ほとんど届かない」という短い言い方に置きかわって広まっています。

その後の研究をまとめると、種類による差はもっと小さい

マグネシウムが腸から吸収される仕組みを2017年に整理した報告では、クエン酸のように水に溶けやすい種類のほうが吸収されやすいという結果がいくつか紹介されています。ただし人を対象にした結果はまちまちで、著者らは「塩の種類は一般に思われているほど重要ではない」と書いています [3] 。

「種類が違う」というのは、マグネシウムが何と結びついているかの違いです。酸素と結びつけば酸化マグネシウム、グリシンというアミノ酸と結びつけばグリシン酸マグネシウム。相手が変わると水への溶けやすさが変わり、そこが吸収の差につながります。ただ、その差は「4%対それ以外」ほどはっきり割り切れるものではなかった、というのが複数の研究を見比べたときの結論です。

種類よりはっきり効いてくるのは、1回にとる量

同じ報告が紹介している別の数字では、差がもっと大きく出ています。1日36mgをとったときに吸収された割合は65%、1日973mgでは11%でした [3] 。少しずつとるほど、体は上手に拾います。同じ量でも、2回に分けるより7回に分けたほうが吸収されて体にとどまった量は多かった、という研究も紹介されています [3] 。

種類を選び直すより、1回量を小さくして飲む回数を分けるほうが、吸収の面では大きく動く。数字はそう示しています。

話題のグリシン酸マグネシウムは、研究がまだ始まったばかり

そのグリシン酸マグネシウムを直接調べた比較試験が2025年に発表されました。眠りに悩みがあると答えた18〜65歳の健康な成人155人が、就寝前にグリシン酸マグネシウム(元素マグネシウムとして1日250mg+グリシン1,523mg)をとる群とプラセボ群に分かれ、4週間続けたものです。不眠の重さを測るISIというスコアは、マグネシウム群で3.9点、プラセボ群で2.3点下がりました。群のあいだの差は1.6点で、有意水準のすぐ内側(p=0.049)でした [4] 。

著者らは、眠りの評価が本人の申告だけで機器による測定がないこと、期間が4週間と短いこと、血液中のマグネシウムを測っていないことを限界として挙げています [4] 。加えて、この製品にはグリシンが1日1,523mg入っています。グリシンは寝つきとの関係が別に研究されているアミノ酸なので、この試験だけでは「どこまでがマグネシウムによるものか」を切り分けられません。

グリシン酸マグネシウムを直接調べた試験は、いまのところこの1件です。マグネシウムと寝つきの研究全体は寝つきが悪いときのマグネシウムにまとめています。

日本では、マグネシウムといえば長らく便秘薬だった

海外のSNSで種類の議論が盛り上がっている一方、日本で「マグネシウム」といえば、酸化マグネシウムの便秘薬がいちばん身近な存在でした。腸に届いて便をやわらかくする使い方では、吸収されにくいことはむしろ目的に合った性質です(仕組みは便秘とマグネシウムへ)。

同時に、日本で長く使われてきたぶん、注意も具体的に積み上がっています。腎臓の働きが落ちている人・高齢の人・便秘症の人が酸化マグネシウム製剤を長く飲み続けると、血液中のマグネシウムが高くなりすぎることがあり、国内で亡くなった例も報告されています [6] 。種類の議論より前に、この安全上の注意を確かめておきたいところです。

日本人の摂取量からすると、平均的には50〜100mgほど少ない

推奨量と、実際にとれている量を並べてみます。

  • 食事摂取基準(2025年版)の推奨量は、成人男性で1日330〜380mg、女性で280〜290mg [5] 。
  • 令和元年国民健康・栄養調査による平均摂取量は、男性261mg、女性235mg [6] 。
  • サプリメントなど通常の食品以外からの上限の目安は、成人で1日350mg [6] 。

食事だけでは推奨量に50〜100mgほど届いていない、というのが平均的な姿です。この幅は、ほうれん草のおひたしや納豆、アーモンドひとつかみといった1品でも埋まることがあります。米ハーバード大学医学部の健康情報サイトも、ほうれん草1食分・アーモンド1オンス(約28g)・バナナ1本で190mgになる例を挙げて、まず食品からとることをすすめています [7] 。

とりすぎの側にも目安があります。サプリメントや薬でマグネシウムをとりすぎると下痢が起こることがあり [5] 、通常の食品以外からは1日350mgが上限の目安です [6] 。種類を変えても、この線は変わりません。

買う前に見るところは、種類の名前より3つ

ハーバードの解説は、種類の違いについて「どの種類でもマグネシウムを補うことはでき、どれを選ぶかは主に目的・副作用の経験・費用・好みで決まる」と書いています [7] 。そのうえで手元で確かめられるのは、次の点です。

  • 元素マグネシウムとして何mgかをラベルで見る。「グリシン酸マグネシウム1,000mg」と書いてあっても、そのうちマグネシウムそのものは100mg台のことがあります [1] 。
  • 1回量を小さくして、飲む回数を分ける。同じ1日量でも、まとめて飲むより分けたほうが吸収の面では有利です [3] 。
  • お腹の反応を目安に量を決める。下痢や軟便が出たら、それが多すぎたというサインです [5] 。

腎臓の病気がある人や、普段薬を飲んでいる人は、飲み始める前に医師に相談してください [7] 。マグネシウムは他の薬やサプリと影響し合うことがあります。

種類の名前は覚えやすく、売り場でも選びやすい手がかりです。ただ研究が示しているのは、結びつく相手より、一度にとる量のほうが吸収量に大きく影響するということでした。ボトルを買い替える前に、今晩のおかずと飲む回数を見直すほうが、たぶん早いです。