サプリメント業界誌が2025年11月に出した2026年の予測記事は、「カフェインの新しい形」を伸びる分野のひとつに挙げています。名前が挙がったのは2つで、一方は作用が長く続くタイプ、もう一方が、作用時間は短いかわりに集中に向くとされるパラキサンチンです [1] 。

パラキサンチンは、体内でできる物質です。肝臓の酵素がカフェインの分子から小さな部品(メチル基)を1つ外すと、この形になります。作られる速さには個人差があり、CYP1A2という酵素の働きの差が関わります [7] 。

海外のプレワークアウトや集中系のサプリには、パラキサンチンを単独の成分として配合した製品が出てきました。売り文句には「カフェインの84%はこれになる」という数字がよく使われます。

カフェインと3つの代謝物について、血液中の量が半分になるまでの時間を横棒の長さでくらべた図
カフェインと3つの代謝物について、血液中の量が半分になるまでの時間を横棒の長さでくらべた図

「84%」は、1986年の5人の試験から来ている

この数字の出どころは、1986年にイギリスの臨床薬理の専門誌に載った研究です。5人にカフェインをくり返し飲んでもらって血中濃度が一定に保たれる状態にしたうえで、カフェインが何にどれだけ変わるかを計算しました [2] 。

報告された値は2種類あります [2] 。

  • カフェインからパラキサンチンへの変換の割合は、平均79.6%(標準偏差21.0)
  • メチル基が外れる経路の中だけで比べると、パラキサンチンが83.9%(標準偏差5.4)、テオブロミンが12.1%、テオフィリンが4.0%

売り文句に使われている84%は、後者です。カフェインのうち何%がパラキサンチンになるかを直接示した数字は79.6%のほうで、こちらは標準偏差が21.0あります。5人のあいだで、変換の割合はかなり散らばっていたことになります。

論文の結論は、パラキサンチンがヒトでのカフェインの主な代謝物であることを確かめたうえで、できる量はそれまでの推定より多い、というものでした [2] 。

体から抜けるまでの時間には違いがある

同じ研究グループが同じ年に出したもう1本の論文では、健康な男性6人に4つの物質をそれぞれ別の機会に飲んでもらい、体内での動きを比べています [3] 。

血液中の量が半分になるまでの時間は、次のとおりでした [3] 。

物質半減期
パラキサンチン3.1時間
カフェイン4.1時間
テオフィリン6.2時間
テオブロミン7.2時間

カフェインを飲むと、体の中にはパラキサンチンのほかにテオブロミンとテオフィリンもできます。この2つはカフェイン本体より長く残ります。

パラキサンチンだけを最初から飲めば、テオブロミンとテオフィリンが増えずに済む。「眠りに残りにくい」という説明は、この理屈で組み立てられています。ただし、もとになっているのは6人で測った血中濃度のデータで、この論文自体は眠りを評価項目にしていません [3] 。

人での試験は12〜13人。3本とも同じ研究室と同じ原料メーカー

パラキサンチンを人に飲ませた試験は、2021年から出はじめました。3本の試験はいずれもテキサスA&M大学の運動・スポーツ栄養研究室で、著者の顔ぶれもほぼ同じ、資金はいずれも原料メーカーのIngenious Ingredients社から出ています。使われた原料は同社のENFINITYです [4] [5] [6] 。

2021年11月の試験は、健康な男女13人が対象でした。パラキサンチン200mgと、見た目が同じプラセボのカプセルを1週間あけて飲み比べ、6時間にわたって認知課題をくり返しています。プラセボと比べると、カード分類課題の誤りは6時間後に少なく、記憶課題の反応時間は2時間後に短いと報告されました [4] 。

翌月の試験は12人で、50mg・100mg・200mgとプラセボを比べています。著者らは、差がより一貫していたのは100mgと200mgだったとしています。血液の一般的な検査値と、副作用の頻度や程度には条件間で差がありませんでした [5] 。

2024年の試験は、訓練された走者12人が10kmを走る前後で認知課題を行うものでした。走ったあとの反応時間は、パラキサンチン単独の条件がプラセボやカフェイン併用の条件より短いと報告されています。カフェインを足しても上乗せは見られませんでした [6] 。

企業が資金を出した試験だから結果が誤りだ、ということにはなりません。ただ、人での認知や運動の研究が1つの研究室と1社に集まっている点は、読むときに知っておきたいところです。

2026年3月、別の研究機関から報告が出た

トルコのシュルナク大学などのグループが、2026年3月にスポーツ栄養の専門誌へ試験を報告しました。対象は大学のボート選手14人(男性)で、外部からの資金提供はなく、利益相反の申告もないと記載されています [7] 。

条件は4つで、プラセボ、カフェイン200mg、パラキサンチン200mg、そして両方を200mgずつ。45分前に飲み、19時から20時のあいだに2000mのエルゴメーターを全力で漕ぎました。この時間帯を選んだのは、就寝までの時間が短い条件で睡眠への影響を見るためです [7] 。

プラセボより有意に速かったのは、カフェインとパラキサンチンを両方飲んだ条件だけでした。所要時間はこの条件で405.91秒、プラセボで409.24秒でした(p=0.044、効果量d=0.30)。平均パワーも、この条件の335Wに対してプラセボは327Wでした [7] 。パラキサンチン単独の条件は、プラセボとの差がつきませんでした。

睡眠は翌朝に、0(いちばんよく眠れた)から10(いちばん眠れなかった)で答えてもらう1項目の尺度で測りました。午後の眠気はカロリンスカ眠気尺度です。プラセボより悪かったのは、どちらもカフェインとパラキサンチンを両方飲んだ条件でした(ともにp=0.006) [7] 。

パラキサンチン単独の条件は、睡眠の指標でもプラセボとの差がつきませんでした。

著者らは限界も挙げています。参加者は14人と少なく、統計的な検出力が限られます。アクチグラフィや睡眠ポリグラフのような客観的な睡眠測定は使っていません。カフェインの分解速度を左右するCYP1A2の遺伝子型も調べていません。量は体重あたりではなく、全員に200mgを渡しました [7] 。そのうえで著者らは、結論として、パラキサンチンの利点は運動の成績よりも睡眠と眠気の面での扱いやすさにある、という見方を示しています [7] 。

安全性を比べた試験は、ラットで行われている

「カフェインより安全」という説明でよく引かれるのは、受託研究機関が2023年に出した報告です [8] 。

ラットに90日間くり返し与えた試験で、有害な影響が見られない量(NOAEL)はカフェインが体重1kgあたり1日150mg、パラキサンチンが185mgと決められました。カフェインの高用量群では2匹が死んだのに対し、パラキサンチンでは死亡も、投与に関係する有害な影響も見られていません。細菌や培養細胞を使った試験では、遺伝毒性や変異原性の証拠は認められませんでした [8] 。

同じ報告の中で、著者らは食品や飲料に広く使う前に安全性の詳しい評価が必要だとも書いています [8] 。

作用の仕方がカフェインと違うという説明も、根拠は動物の試験です。米国立薬物乱用研究所などのグループが2013年に出した研究では、パラキサンチンはカフェインより強くラットの動きを増やし、脳の線条体という部分で細胞の外のドーパミンを増やしました。カフェインではこの変化が起きていません。人で同じことが起きるかどうかは、この研究の範囲の外です [9] 。

日本では、カフェインについても具体的な目安が示されていない

農林水産省のページ(令和8年8月28日更新)には、日本ではカフェインの摂取量について明確な基準や具体的な目安は示していない、と書かれています [10] 。

同じページが紹介している海外の数値は次のとおりです [10] 。

  • EFSA(欧州食品安全機関):健康な大人で1日400mg、妊婦・授乳婦で1日200mg
  • カナダ保健省:18歳以上で1日400mg、妊婦・授乳婦で1日300mg、18歳未満は体重1kgあたり1日2.5mg
  • WHO:妊婦で1日300mg

国内の目安がないという点は、カフェインの代謝物であるパラキサンチンでも同じです。研究で使われてきた1回50〜200mgという量は、試験の設計として選ばれた数字です [4] [5] 。

買う前に確かめておきたいこと

  • 1回量が何mgか。人での試験で使われてきたのは1回50mgから200mgまでです [5] 。
  • カフェインが一緒に入っていないか。2026年の試験で睡眠と眠気の指標が悪くなったのは、両方が入った条件でした [7] 。
  • 「カフェインより安全」という説明が何を指しているか。根拠になっているのは、ラットに90日間与えた試験です [8] 。
  • 妊娠中・授乳中の方、心臓や血圧の持病がある方、薬を飲んでいる方は、試す前に医師・薬剤師にご相談ください。カフェイン全般の注意点はカフェインにまとめています。

成分そのものの解説はパラキサンチンに、集中や記憶をめぐる研究の中身は集中・記憶とパラキサンチンにあります。集中力・記憶を高めたいには、L-テアニンやイチョウ葉の記事も並びます。売り文句の数字をさかのぼった記事には、カモミールのアピゲニンと「寝る前50mg」もあります。

コーヒーを1杯飲めば、体は数時間かけてパラキサンチンを作ります。その形を最初から飲むことについて、いま人で調べられているのは12〜14人規模の試験が数本程度です。売り場で迷ったら、値段や売り文句の前に、その成分が何人で試されたのかを確かめてみてください。