2026年5月19日、水に溶かして飲む電解質パウダーが国内で発売されました [1] 。7月27日には、大塚製薬がポカリスエットの粉末スティックを出しています [2] 。電解質(水にとけるとプラスやマイナスの電気を帯びる、ナトリウムやカリウムなどのミネラル)を粉で足すという売り方が、この夏の売り場で目につくようになりました。

足しているものの中心は、塩です。米国で人気の製品は、1スティックにナトリウム1,000mgを入れていると公表しています [3] 。食塩相当量にしておよそ2.5gです。

いっぽう、日本人の食塩摂取量は令和6年の国民健康・栄養調査で1日平均9.6g [4] 。カリウムのほうは、男女とも目標量に届いていません [5] 。同じ「電解質を足す」でも、日本の数字に重ねると足りない側と余っている側が入れ替わります。

日本人の平均的な摂取量を、食塩は目標を超え、カリウムは目標に届いていない状態としてコップの水位で示した図
日本人の平均的な摂取量を、食塩は目標を超え、カリウムは目標に届いていない状態としてコップの水位で示した図

日本の売り場に並んだ粉

5月に出た製品は、120g(4g×30本)で税込5,940円。ナトリウム・カリウム・マグネシウムにビタミンCを合わせ、「汗に近い成分設計」と説明しています [1] 。ただし、1本に各電解質が何mg入っているかは、この発売時のリリースには書かれていません。

数字がはっきり出ているのは7月の粉末スティックのほうです。1本14.5gを500mLの水に溶かす前提で、食塩相当量0.52g、カリウム106mg、カルシウム11mg、マグネシウム3.0mg [2] 。500mLに溶かすと、100mLあたりのナトリウムはおよそ41mgになります。

この41mgという数字には、寄りかかっている目安があります。清涼飲料の業界団体は「熱中症対策」と表示できる飲料の条件を、ナトリウム濃度で100mLあたり40〜80mgと定めています [6] 。根拠として厚生労働省の熱中症予防関連資料を挙げたもので、下限のすぐ上に設計されていることになります。ちなみにこのガイドラインでは、「熱中症対策」という言葉を商品名や容器包装には使わず、テレビCMや店頭のPOPで使うことになっています。パッケージにその文字が見あたらないのは、そういう取り決めがあるためです。

「塩は増やすほうがいい」はどこから来たのか

米国の製品は、ナトリウムの量がその5倍近くあります。1スティックにナトリウム1,000mg、カリウム200mg、マグネシウム60mg [3] 。500mLに溶かせば、100mLあたりのナトリウムは200mgです。

公式ページは、この量にした理由をはっきり書いています。最適な健康上の結果は政府の推奨量の2〜3倍のナトリウム量で得られるという研究が増えている、として「More Salt, Not Less(塩は減らすのではなく増やす)」という方針を掲げています [3] 。

この主張をたどると、2014年にNew England Journal of Medicine誌に載った観察研究に行き当たります [7] 。17か国101,945人を平均3.7年追った研究で、1日のナトリウム排泄量4.00〜5.99gを基準にすると、7.00g以上の人(オッズ比1.15)でも3.00g未満の人(同1.27)でも死亡と心血管イベントの合計が多い、という結果でした。基準にあたる4〜6gは、食塩に直すとおよそ10〜15gにあたります。両端でリスクが上がるU字型に読めるため、「減らしすぎもよくない」という主張の土台になってきました。

引っかかるのは測り方です。この研究は朝の空腹時に採った1回ぶんの尿から1日の排泄量を推定していて、実際に1日ぶんを測ったわけではありません。

尿の測り方を変えると、U字は出なかった

2022年、同じ雑誌に、測り方を変えた解析が載りました [8] 。おおむね健康な成人を追った6つのコホート研究を統合したもので、参加者10,709人が1人につき2回以上、24時間ぶんの尿をためて排泄量を実測しています。

中央値8.8年の追跡で571件の心血管イベントが起きました。24時間ナトリウム排泄量の中央値は3,270mg。そして1日あたり1,000mg多いごとに心血管リスクが18%高いという関連が示されました(95%信頼区間は8〜29%高い)。カリウムのほうは逆で、排泄量が多い群ほどリスクが低く、ナトリウムとカリウムの比が高い人ほどリスクが高い、という結果です。

どちらも観察研究で、飲んでもらって比べた試験ではありません。それでも、1回ぶんの尿から推定した解析ではU字が見え、1日ぶんをためて実測した解析では右上がりの直線に近づいた、という食い違いは残ります。米国の製品が根拠に置いているのは、前者のほうです。

日本の数字を並べてみる

ここで日本の公的な数字に戻ります。

食塩は、日本人の食事摂取基準(2025年版)の目標量が成人男性で1日7.5g未満、女性で6.5g未満 [9] 。実際の平均は令和6年の調査で9.6gでした [4] 。この12年でいちばん低い値ではあるものの、健康日本21(第三次)が掲げる7gという目標値には届いていません。

カリウムは向きが反対です。目標量は18歳以上の男性で1日3,000mg以上、女性で2,600mg以上。令和5年の調査による20歳以上の平均摂取量は男性2,370mg、女性2,190mgで、男女とも目標を下回っています [5] 。差にすると、男性でおよそ630mg、女性でおよそ410mg足りていません。

つまり日本の平均的な食卓では、塩は目標より2〜3g多く、カリウムは400〜600mg少ない状態です。ここに1本ナトリウム1,000mgの粉を足すと、食塩相当量は12gを超えます。カリウムのほうは200mgが足されるだけで、不足分は埋まりません。

カリウムを足す側の研究はどうなっているか

では、足りない側のカリウムを補えばよいのか。この問いには、量の上と下の両方に目印があります。

2020年のメタ分析は、4週間以上おこなわれた32件のランダム化比較試験を集めて、カリウムの補給量と血圧の関係を調べました [10] 。補給量は1日30〜140mmol、およそ1,200〜5,500mgの幅です。関係はU字を描き、24時間尿の排泄量の差が1日30mmolを超えるあたりから血圧が下がる度合いは弱まり、およそ80mmolを超えると血圧が上がる側に転じました。血圧が下がる度合いが大きかったのは、高血圧のある人と、ナトリウム摂取量が多い人です。高い排泄量で血圧が上がったのは降圧薬を使っている人に限られ、使っていない人では見られませんでした。

食事から置き換えるやり方で、いちばん大きな試験は中国でおこなわれています [11] 。600の村に住む20,995人を村ごとに割り付け、片方は塩化ナトリウム75%と塩化カリウム25%を混ぜた代替塩(普通の食塩の一部をカリウムの塩に置き換えたもの)を使い、もう片方は普通の食塩を使いました。平均4.74年で、脳卒中は1000人年あたり29.14件対33.65件と代替塩の側で少なくなっています。

ただし参加者は、脳卒中の既往があるか、60歳以上で血圧が高い人たちでした。平均年齢65.4歳、88.4%が高血圧の既往ありです。この結果を、血圧が高くない人がサプリで置き換える話にそのまま移すことはできません。

汗をかいた日は、別の目盛りで考える

運動や暑さで汗をかいた日は、条件が変わります。

2016年の試験は、水分が足りている状態の男性72人に13種類の飲料のうち1Lを30分かけて飲んでもらい、その後4時間の尿量を測りました [12] 。総尿量は、水が1,337gだったのに対し経口補水液は1,038g。電解質を含む飲料のほうが体内にとどまりやすい、という結果です。

その経口補水液の中身も見ておきます。国内で流通するものは100mLあたりナトリウム115mg(食塩相当量0.292g)、カリウム78mg [13] 。表示上は「軽度から中等度の脱水症における水・電解質の補給、維持に適した病者用食品」で、1日の目安量は学童から成人で500〜1000mLとされています。日ごろの水分補給のために毎日飲むことを想定した設計ではありません。

100mLあたりのナトリウムで並べると、業界の表示ガイドラインが40〜80mg [6] 、粉末スティックがおよそ41mg [2] 、経口補水液が115mg [13] 、米国の製品を500mLに溶かすと200mg [3] 。同じ「電解質補給」の棚に並んでいても、想定している場面は同じではありません。

売り場で確かめる3つの数字

裏面を見るときの順番を決めておくと迷いません。

  • 1本あたりの食塩相当量。ここが2gを超えるなら、その日の食事の塩を差し引いて考える必要があります。
  • 100mLあたりのナトリウム量。汗をかく場面向けなら40〜80mgが業界の目安、脱水したときの補水はそれより濃い設計です [6] [13] 。
  • カリウムの量。日本で目標に届いていないのはこちらなので、食塩相当量とカリウムの量を見くらべると、その商品が何を足す設計なのかが分かります。

日常の水分補給で足りないぶんは、野菜・いも類・果物・牛乳乳製品からのほうが量をかせげます。カリウム摂取源の約20%は野菜類からです [5] 。

この記事で確かめた数字

  • 国内の粉末スティックは1本14.5gで食塩相当量0.52g・カリウム106mg。500mLに溶かすと100mLあたりナトリウムおよそ41mg [2]
  • 米国の製品は1スティックでナトリウム1,000mg・カリウム200mg。食塩相当量にしておよそ2.5g [3]
  • 日本人の食塩摂取量は令和6年の調査で1日平均9.6g。目標量は男性7.5g未満・女性6.5g未満 [4] [9]
  • カリウムの平均摂取量は令和5年の調査で男性2,370mg・女性2,190mg。目標量は男性3,000mg以上・女性2,600mg以上 [5]
  • 1回ぶんの尿から推定した2014年の解析ではU字型、1日ぶんを実測した2022年の解析では1,000mg増ごとにリスク18%高い [7] [8]
  • カリウムの補給は1日30mmol(およそ1,200mg)を超えるあたりから血圧が下がる度合いが弱まり、降圧薬を使っている人では高い排泄量で血圧が上がった [10]

腎臓の働きが低下している方、カリウムを制限するよう言われている方、血圧の薬を飲んでいる方は、カリウムを足す前に医師・薬剤師にご相談ください。妊娠・授乳中の方も同様です。

電解質パウダーは、水に何かを足すための商品です。日本の売り場では、足す前にすでに入っている塩のほうが、たいてい先に目標を超えています。

成分そのものの説明はカリウムとマグネシウムにまとめています。酸化マグネシウムとグリシン酸マグネシウムで何が変わるかは、マグネシウムサプリの「種類」で何が変わる?に出典つきで並べました。