2024年4月、ある企業が5-デアザフラビン配合サプリの発売を知らせるプレスリリースを配信しました。素材の説明にはこう書かれています。「ミトコンドリア活性においてNMNの数十倍のパワーをもつ」 [1] 。

この「数十倍」は、その後の広告やまとめ記事に何度も引かれています。ただ、どの実験の何を測った倍率なのかまで書いているものは見あたりませんでした。

ビタミンB2の骨格から作られた化合物

ビタミンB2の正式な名前はリボフラビンといいます。この分子は、環が3つつながった骨格を持っていて、その真ん中の環の5番目の位置に窒素があります。この窒素を炭素に置きかえたものを、まとめてデアザフラビンと呼びます。「デアザ」は「アザ(窒素)を取り去った」という意味です。

サプリの原料として名前が挙がるのは、この仲間のTND1128という化合物です。ビタミンB2そのものではありませんし、食品から見つかった成分でもありません。実験室で作られた物質です。

「数十倍」はプレスリリースに書かれた数字

先ほどのプレスリリースには、もう1つ倍率が並んでいます。「サーチュイン遺伝子(長寿遺伝子)の活性化→NMNの数倍」 [1] 。

どちらの数字にも、どの実験のどの測定値どうしを比べたのかという説明は付いていません。根拠として挙げられているのは、崇城大学薬学部の永松朝文博士の研究という一文です [1] 。

出てくるのは、マウスと培養細胞の論文3本

欧州の論文データベースEurope PMCで「TND1128」を検索すると、査読誌に載った論文が3本と、査読前の原稿が2本見つかります。3本はいずれも永松博士が著者に加わっています。

  • 2021年、培養したマウスの海馬(記憶に関わる部位)の神経細胞にTND1128を加えた研究。軸索と樹状突起の枝分かれが増え、興奮性シナプスの数が増えたと報告されています [2] 。
  • 2023年、TND1128とβ-NMNをマウスに皮下注射し、22時間ほどあとに作製した脳スライスで、カルシウムの動きを比較した研究 [3] 。
  • 2024年、TND1128を腹腔内に注射したマウスの脳スライスで、ミトコンドリアの膜電位を測った研究 [4] 。

3本とも、著者らは論文の結びでTND1128を薬の候補として位置づけ、エネルギー不足で弱った神経を助けられる可能性に言及しています [2] [3] [4] 。サプリの素材としてではありません。

NMNと並べた1本を読むと

「数十倍」に最も近い比べ方をしているのは、2023年の論文です。TND1128とβ-NMNを同じ実験の中に置いて、マウスの脳スライスでのカルシウムの動きを見ています。

このとき使われた量は、次のとおりでした [3] 。

与えたもの量(体重1kgあたり)
TND11280.01mg・0.1mg・1mg
β-NMN10mg・30mg・100mg
2023年の論文でマウスに与えられた量を、体重1kgあたりのmgでくらべた図
2023年の論文でマウスに与えられた量を、体重1kgあたりのmgでくらべた図

桁が2つから3つ違います。結果のほうは、TND1128を与えた群で細胞質とミトコンドリアの両方のカルシウムの動きが投与量に応じて弱まり、β-NMNを与えた群では細胞質側に投与量に応じた変化があったものの、ミトコンドリア側では統計的な差が出ませんでした [3] 。

ただし、この論文のどこにも「何倍」という比較は書かれていません。それぞれの物質について、変化が確認された投与量の範囲を報告しているだけです。

縮尺の違う2枚の地図を重ねても、そこから距離は読み取れません。皮下注射でマウスに入れた量と、カプセルで人が飲む量は、通る道も届く先も違います。

人での試験は、まだ見あたらない

臨床試験の登録データベースClinicalTrials.govで「deazaflavin」と「TND1128」を検索すると、2026年9月3日の時点で該当する試験は見つかりませんでした [5] 。論文データベースのEurope PMCで臨床試験に分類される報告を探しても、同じく見つかりません。

つまり、人が口から飲んだときにどう吸収され、どこへ届き、何が変わるのかを調べた報告が、まだ公開されていません。1日何mgという目安を示せるだけの情報がないのもそのためで、量を決める手がかりになる数字が公開情報の中に見あたらない状態です。

同じNAD+まわりで名前が挙がるNMNとニコチンアミドリボシドには、健康な人に飲んでもらった試験の報告があります。国ごとの扱いや1日量の数字がどこから来ているかは、NMNサプリの「1日何mg」で追いかけました。5-デアザフラビンのほうは、動物に注射した実験までしか出ていません。

買う前に確かめられること

  • 裏面に届出番号があるかを見ます。機能性表示食品は、機能性の根拠を販売前に消費者庁へ届け出た製品で、番号が付いています。それ以外の健康食品はこの枠組みの外にあります [6] 。
  • 「NMNの◯倍」と書かれていたら、何を測った倍率なのかを探します。書かれていなければ、その数字は判断の材料になりません。
  • 広告に研究者や大学の名前が出ていたら、その名前で論文を探せます。今回のように、動物実験までなのか人での試験があるのかは、要約を読めば分かります。
  • 食品としての食経験が確認されていない物質です。持病のある方、薬を飲んでいる方、妊娠・授乳中の方は、利用前に医師にご相談ください。

今回は、プレスリリースの一文から論文3本までたどれました。人を対象にした試験は見つかりません。倍率の書かれた広告を見かけたときは、同じ順番で出どころをたどると、どこまで確かめられているかが分かります。

5-デアザフラビンの研究の中身はエイジングケアと5-デアザフラビンに、成分そのものの説明は5-デアザフラビンにまとめました。