農林水産省が2026年2月3日に発表した2025年の輸出実績で、緑茶の輸出額は前年比98.2%増の720億円と、ほぼ2倍になりました [1] [2] 。ラテやスイーツの原料になる、抹茶を含む粉末状の茶が伸びを引っぱりました [2] 。国内でも、原料のてん茶、つまり抹茶に挽く前の茶葉の生産量が2023年に4,176tと過去最高で、2008年の2.9倍です。同じ15年で煎茶は63,544tから38,418tへ減っています [3] 。9月9日には三重県伊賀市の地域紙が、老舗の茶店の店主が「今年の茶葉の仕入れ価格は昨年の約3倍」と話したと伝えました [4] 。

「EGCGが緑茶の137倍」。抹茶の宣伝文句によく出てくる数字です。EGCGはエピガロカテキンガレートの略で、緑茶カテキンの中でいちばん量が多い成分を指します。この137倍は、何と何をどう比べて出てきた数字なのか。出どころの論文と日本の食品成分表で、1杯に入っている量まで確かめます。

抹茶は挽いた茶葉を湯に混ぜて粉ごと飲み、煎茶は急須で淹れた液だけを飲んで葉は残るという、飲み方の違いを示した図
抹茶は挽いた茶葉を湯に混ぜて粉ごと飲み、煎茶は急須で淹れた液だけを飲んで葉は残るという、飲み方の違いを示した図

「137倍」は2003年の1本の論文から

出どころは2003年、米国の研究者2人が分析化学の専門誌に出した論文です [5] 。ミセル動電クロマトグラフィーという測定法で抹茶のカテキン5種とカフェインを測り、抹茶を水とメタノールで抽出したものと、China Green Tipsという市販の緑茶製品1つを水で抽出したものを、乾いた葉1gあたりのカテキン量で比べました。抹茶の抽出液から測ったEGCGは、この製品の137倍。同じ論文は続けて、ほかの緑茶について文献に載っている最大の値と比べても少なくとも3倍だった、と書いています [5] 。

つまり、比較相手に選ばれた1製品との差が137倍でした。緑茶全体との差として著者らが示した値は「少なくとも3倍」でした。それでも大きい数字だけが残り、2025年8月には米カリフォルニア大学ロサンゼルス校の医療機関の記事でも「標準的な緑茶の最大137倍」と紹介されています [6] 。

作り方を見れば、抹茶に多いこと自体は自然です。煎茶は急須で淹れた液を飲み、葉は急須に残ります。抹茶は葉を石臼で挽いた粉を湯に混ぜて、葉ごと飲みます。葉に入っている成分が、そのまま口に入る飲み方です。

抹茶1杯(2g)に入っている量

まず1杯の粉の量を決めます。茶道の薄茶でおよそ2g、全国茶生産団体連合会の淹れ方の表も、抹茶は粉2gに湯90mLとしています [7] 。この2gを基準に数えます。

文部科学省の食品成分表を見ると、抹茶は100gあたりカフェイン3.2g、タンニン10.0gです [8] 。2gに直すとカフェイン64mg、タンニン200mg。同じ表で、せん茶の浸出液は100gあたりカフェイン0.02g、タンニン0.07gです。浸出法は茶10gを90℃の湯430mLで1分。湯のみ1杯を100mLとすれば、カフェイン20mg、タンニン70mgになります [8] 。1杯どうしで比べると、カフェインもタンニンも抹茶のほうがおよそ3倍。2003年の論文が緑茶の文献値との差として書いた「少なくとも3倍」と、だいたい同じところに落ち着きます。

成分表のタンニンは渋み成分をまとめて測った値で、カテキンそのものの合計とは測り方が違います。カテキンを直接測った例として、2024年に日本で行われた抹茶の試験があります。試験で使われた伊藤園の抹茶2gには、カテキン170.8mg、テアニン48.1mg、カフェイン66.2mgが入っていました。カテキンのうちEGCGは105.3mgです [9] 。カフェインは、成分表から計算した64mgとほぼ同じ数字でした。

ただし、抹茶なら何でもこの値になるわけではありません。ポーランドの研究者が2024年に市販の抹茶を分析したところ、カフェインは1gあたり約2.2mgでした。同じ論文が引くチェコの2020年の分析では、抹茶のカフェインは1gあたり14.4〜34.1mgです [10] 。産地・等級・分析の方法で、値にはこれだけの幅が出ます。

研究で使われた量を、杯数に直す

抹茶の成分のうち、人での試験が多いのはテアニンとカテキンです。試験で使われた量を、2gの抹茶に入っている量で割ってみます。

まずテアニン。健康な成人30人に1日200mgを4週間とってもらった日本の試験のように、1日200mgがよく使われる量です [11] 。抹茶2gのテアニンは48mgでしたから [9] 、200mgは抹茶4杯分、粉にして8gにあたります。テアニンの研究はL-テアニンのページとストレス・緊張とL-テアニンにまとめています。

次にカテキン。身近な比べる相手として、特定保健用食品のヘルシア緑茶があります。350mLの1本に茶カテキン540mg、カフェイン80mgです [12] 。抹茶2gのカテキン171mgで割ると、1本が抹茶3杯分ちょっと。体脂肪を調べたカテキンの研究は体脂肪・代謝と緑茶カテキンにあります。

抹茶そのものを人に飲んでもらった試験も、2024年に日本から出ています。60〜85歳で認知機能の低下を自覚する人か軽度認知障害のある99人を2群に分け、カプセル9粒に詰めた抹茶2gまたはプラセボを12か月とってもらいました。1日量を2gにした理由は、お点前で使う抹茶の量が2gだからと論文に書かれています [9] 。あらかじめ決めていた主要な評価項目は認知テストのMoCAと日常生活動作の指標で、2群に差がつかず、副次的に測った表情の読み取りで差が出ました。睡眠の質の指標はP値が0.088で、有意水準に届いていません。著者には伊藤園とMCBI社の社員が含まれ、外部資金は受けていないと明記されています [9] 。

サプリの800mgという線

1杯どうしなら3倍前後の抹茶と、抽出物を固めたサプリでは、量の桁が違います。欧州食品安全機関(EFSA)は2018年、伝統的な淹れ方の緑茶からとるカテキンは、欧州で報告されている摂取量の範囲なら一般に安全とみなせると結論しました。緑茶の浸出液からのEGCGは成人で1日平均90〜300mg、多く飲む人でも866mgと見積もっています。一方でサプリとして1日800mg以上のEGCGをとった介入試験では、血清トランスアミナーゼという、肝臓の細胞がこわれると血液に出てくる酵素が、対照群より有意に上がっていました [13] 。

この評価を受けて、EUは2022年12月から、緑茶抽出物由来のEGCGを1日分で800mg以上含む食品の製造を禁止しました。ラベルには1回分のEGCG量と1日の最大摂取回数のほか、「同じ日に緑茶を含む他の製品をとらない」「妊娠中・授乳中の人と18歳未満はとらない」「空腹時にとらない」の文言が必要です。淹れた緑茶や、それと同等の組成に戻る飲料は対象外です [14] 。

800mg未満なら必ず安心、とも言い切れません。英国の毒性委員会(COT)は2024年、800mg未満では12か月までの臨床試験で肝毒性の証拠は見つからなかったとしつつ、EGCG 375mg含有の製品での肝障害の報告例に触れました。こうした反応は、特異体質と呼ばれる、遺伝的な要因が関わるまれで予測しにくい個人の反応とみられると整理しています。日本の食品安全委員会が、この声明を海外情報として紹介しています [15] 。

抹茶に戻して数えると、EGCG 105mgの1杯 [9] なら、800mgに届くまで8杯、粉にして16gかかります。飲み物としてそこまで飲む人はまずいません。線に近づくのは、1粒で数百mgを詰めた抽出物のほうです。

カフェインは、コーヒーとの足し算になる

抹茶2gのカフェインは64〜66mg [8] [9] 。米国の記事も1杯60〜70mgとしています [6] 。農林水産省は、日本にはカフェインの摂取量の基準がないとしたうえで、海外の目安としてEFSAの健康な成人で1日400mg、妊婦と授乳婦で200mgを紹介しています [16] 。抹茶だけなら、健康な成人で6杯、妊娠中・授乳中なら3杯でこの目安に届きます。コーヒーやエナジードリンクを飲む日は、その分を足して数えることになります。店の抹茶ラテは粉の量が店ごとに違うので、2gより多いことがあります。

売り場で確かめる目安

  • 抹茶パウダー:1杯に使う粉の重さを見る。2gなら、カテキンおよそ170〜200mg、カフェイン60〜70mg、テアニン50mg前後が目安です [8] [9] 。
  • 「137倍」の表示:比較相手は1製品です。1杯どうしなら差は3倍前後 [5] [8] 。
  • カテキンのサプリ・抽出物:EGCGの1日量の表示を見る。EUは800mgで線を引き、空腹時と、同じ日の緑茶との重ね飲みを避ける文言を義務づけています [14] 。
  • カフェイン:抹茶を1日何杯飲むかと、コーヒーの杯数を合わせて数える。妊娠中・授乳中は1日200mgが海外の目安です [16] 。

持病のある方、薬を飲んでいる方、妊娠・授乳中の方は、飲み始める前に医師・薬剤師にご相談ください。

この記事で確かめた数字

  • 2025年の緑茶の輸出額は720億円で前年比98.2%増。伸びの中心は抹茶を含む粉末状の茶 [1] [2]
  • てん茶の生産量は2023年に4,176t(2008年の1,452tの2.9倍)。煎茶は63,544tから38,418tへ [3]
  • 「137倍」は2003年の論文が市販の緑茶製品1つと比べた値。緑茶の文献値との差は「少なくとも3倍」 [5]
  • 抹茶は100gあたりカフェイン3.2g・タンニン10.0g。2gでカフェイン64mg・タンニン200mg。せん茶の浸出液100gはカフェイン0.02g・タンニン0.07g [8]
  • 試験に使われた抹茶2gの実測値はカテキン170.8mg(EGCG 105.3mg)・テアニン48.1mg・カフェイン66.2mg [9]
  • 抹茶のカフェインは分析によって1gあたり2.2mgから34.1mgまで幅がある [10]
  • テアニンの試験で使われる1日200mgは抹茶4杯分。ヘルシア緑茶1本の茶カテキン540mgは抹茶3杯分 [11] [12]
  • EFSAはサプリとしてのEGCG 1日800mg以上で肝臓の酵素の上昇を確認。浸出液からの摂取量は平均90〜300mg/日 [13]
  • EUは2022年12月から800mg以上の食品を禁止し、ラベルの注意文言を義務化 [14]
  • 英国COTは800mg未満で12か月までの試験に肝毒性の証拠なしとしつつ、375mgの製品での報告例を挙げる [15]

比べる相手を1杯どうしに置きなおすと、137倍は3倍前後まで縮みます。数字は、何と何を、どの単位で比べたかを添えて読むと、大きさがつかめます。抹茶は葉ごと飲むお茶で、その分だけ濃い。それだけのことを、137という数字は大きく見せていました。

成分そのものの説明は緑茶カテキンとL-テアニン、カフェインについてはカフェインのページにまとめています。