2023年6月、コロンビア大学らのグループがScience誌に論文を発表しました。マウス・アカゲザル・ヒトのどれでも血中のタウリンが加齢とともに下がり、中年のマウスに与え続けると寿命が延びた、という内容です。日本語のニュースでも、寿命はオスで10%、メスで12%延びたと伝えられました。
その2年後、同じ雑誌に逆向きの報告が載ります。ヒトの血中タウリン濃度は、加齢に伴って低下していなかったという長期データでした。
年齢の違う人を一度に測るやり方と、同じ人を何年も追いかけて測るやり方の違いを示した図
マウスに与えたのは体重1kgあたり1,000mg
2023年の実験は、生後14か月のマウスから始まっています。ヒトなら45歳前後にあたる時期です。ここから寿命が尽きるまで、毎日1回、体重1kgあたり1,000mgのタウリンを口から与え続けました。
体重60kgの人に同じ比率をあてはめれば60,000mgになりますが、この掛け算に意味はありません。マウスは人より代謝の速度が速く、取り込んだ成分を処理して外へ出す速さも違います。同じmg/kgを与えても、体の中に残る濃さと時間はそろいません。
サルの実験は中年期のアカゲザルに6か月。ヒトについては、欧州各国の60歳以上およそ1万2000人で、血中濃度と約50の健康指標の関係を調べた解析でした。人にタウリンを飲んでもらって寿命を比べた試験は、このときも今も行われていません。論文自身も、確かめるには臨床試験が要ると結んでいます。
2025年の報告は、測り方を変えた
2025年6月5日、米国立老化研究所を中心とする14人の著者が、同じScience誌に研究結果を発表しました。
学年ごとに身長を一度に測れば、6年生は1年生より背が高いと分かります。ただ、ひとりの子が1年でどれだけ伸びるかは、同じ子を毎年測らないと出てきません。2025年の解析は、この後者、つまり同じ集団を繰り返し測る縦断のデータを軸に置きました。
地理的に離れた3つのヒト集団と、ヒト以外の霊長類、そしてマウス。いずれでも、血中タウリンは加齢とともに増えるか、ほぼ変わりませんでした。個人ごとの差のほうが、加齢による差より大きかったとも書かれています。血中タウリンは老化の進行度を示す指標(バイオマーカー)にはならない、というのが結論です。
この報告は、タウリンをとっても意味がないと示したものではありません。揺れたのは「加齢で減っているから補う」という出発点のほうです。
2026年7月の日本の発表は、シャーレの段階
日本でも動きがありました。2026年7月28日、大正製薬がタウリンと老化細胞についての結果を公表しています。
薬剤で老化を誘導したマクロファージ(体の中の不要なものを取り込んで片づける免疫細胞)にタウリンを加えたところ、老化を誘導していない細胞の生存率は変わらないまま、老化を誘導した細胞の生存率だけが下がりました(n=8)。老化細胞に多く現れるp21というたんぱく質を目印にして数えると、目印を出す細胞の割合も下がっています(n=4)。
培養した細胞での結果です。人が飲んだときに体の中で同じことが起きるかどうかは、この実験からは分かりません。同社も、2023年の報告のあとタウリンの仕組みがほとんど明らかになっていないことを、研究の出発点に挙げています。
日本で「タウリンのサプリ」が販売されていない理由
ここまでの話は海外のサプリ売り場の景色で、日本では前提が1つ違います。タウリンは、いわゆる健康食品に配合できません。
原材料が医薬品にあたるかどうかは、厚生労働省が示す「専ら医薬品として使用される成分本質(原材料)リスト」(医薬品リスト)で線が引かれています。このリストに載っている原材料は、いわゆる健康食品には使えません。タウリンは医療用医薬品として使われている実態があるため、リストの側に入ります。
だからタウリンは、栄養ドリンクや医薬品のかたちで売られます。「タウリン1000mg」と書かれた瓶には、指定医薬部外品として売られているものがあります。区分は容器の表示で確かめられます。海外の通販サイトにタウリンのカプセルが並ぶのは、この線の引き方が国ごとに違うためです。
食品として食べる場合は、この規制の対象外です。たこやいわしは成分としてタウリンを含みますが、一般に食品として売られているものなので、専ら医薬品とは判断されません。イカ・タコ・カキ・ホタテ・魚の血合いから食べるぶんには、この話は関係しません。
いま確かめられること
- 食事からとるなら、イカ・タコ・カキ・ホタテ・魚の血合いが多く含む食材です。
- 栄養ドリンクは、容器の区分表示(指定医薬部外品・医薬品など)とタウリンのmg数を見ます。カフェインも一緒に入っていることが多く、飲んだあとの実感には、カフェインの影響も考えられます。
- 個人輸入で買うタウリンのサプリは、日本の区分の外にあります。国内で流通している製品と同じ扱いにはなりません。
- 持病のある方、薬を飲んでいる方、妊娠・授乳中の方は、利用前に医師・薬剤師にご相談ください。
2023年の見出しと2025年のデータは、3年をおいて同じ雑誌に並んでいます。次に数字が動くとしたら、シャーレでもマウスでもなく、人にタウリンを飲んでもらって比べた試験からです。
成分そのものの説明はタウリンに、疲れとの関係は疲れ・だるさとタウリン、運動の場面は持久力とタウリンにまとめました。