海外で「ライオンズメイン(Lion’s Mane)」の名前で売られているサプリの中身は、日本でヤマブシタケと呼ばれてきた食用きのこです。白いふさふさした見た目で、日本では鍋や炒め物にも使われてきました。

商品の説明には、たいてい「NGF」という3文字が出てきます。その出どころは、1990年代までに日本の研究者が取り出した2群の成分です。ただし、この2群はきのこの異なる部位から見つかっています。

ヤマブシタケの地上に出る子実体からはヘリセノン類、培地の中に広がる菌糸体からはエリナシン類が見つかったことを表した図
ヤマブシタケの地上に出る子実体からはヘリセノン類、培地の中に広がる菌糸体からはエリナシン類が見つかったことを表した図

「NGF」の出どころは、きのこの異なる部位にある2群の成分

NGFは神経成長因子の略で、神経の細胞が生き延びて枝を伸ばすのを支えるたんぱく質です。

2009年末までの論文を整理した総説によると、ヤマブシタケからはヘリセノン類とエリナシン類という2群の成分が取り出され、どちらもNGFが作られるのを促す物質として研究されてきました [1] 。取り出された場所が違います。ヘリセノン類は地上に出ているきのこの本体(子実体)から、エリナシン類は培地の中に広がる糸状の部分(菌糸体)からです [1] 。

エリナシン類のほうは、その後も新しい種類が見つかり続けています。2026年3月の総説の時点で23種類が報告されており、主に菌糸体で作られる成分だと整理されています [2] 。

同じヤマブシタケでも、どの部位を使ったかで入っている成分が変わる。ここが、この成分をめぐる話のいちばん最初の分かれ道です。

細胞と動物の研究は積み上がり、人ではNGFそのものを測っていない

エリナシン類が神経にどう関わるかを調べた研究を集めた2025年の報告があります。対象になったのは培養細胞とげっ歯類のモデルで、人を対象にした試験は含まれていません [3] 。動物では、運動・記憶・抑うつに関連する行動の変化が量に応じて見られたこと、エリナシンAとCが抗酸化の反応に関わる転写因子をためることなどが報告されています [3] 。

一方、人を対象にした試験が測ってきたのは、認知テストのスコアや気分の質問票です。人の脳の中でNGFが増えたかどうかを直接測った試験は、いまのところ見当たりません。細胞と動物で見つかった仕組みの名前が、そのまま商品の説明に載っている、という形になっています。

日本の30人・16週間の試験は、やめると4週間で元に戻った

人での代表的な試験は、日本で行われたものです。2009年に報告されたこの試験は、50〜80歳で軽度認知障害(もの忘れが年齢のわりに目立つが、日常生活は保たれている状態)と診断された男女が対象でした [4] 。

2週間の予備観察のあと、30人を15人ずつの2群に分けます。ヤマブシタケの群は、乾燥粉末を96%含む250mgの錠剤を4粒、1日3回とりました。合計で1日3gを16週間です [4] 。

8週・12週・16週の時点で、改訂長谷川式簡易知能評価スケール(日本でよく使われるもの忘れの検査)のスコアが、見せかけの薬をとった群より高くなったと報告されています。スコアはとり続けた期間に応じて伸びていきました [4] 。

そして16週で摂取をやめたあと、4週間の観察が続きます。この4週後、スコアは有意に下がりました [4] 。血液などの検査では、有害な影響は見られていません [4] 。

摂取をやめるとスコアが戻ったという結果には、二つの読み方があります。とっているあいだの変化が本物だったという見方と、続けなければ何も残らないという見方です。どちらにしても、30人という規模で1回確かめられただけの結果です。

もうひとつ、注意しておきたい点があります。論文の著者の所属は、ヤマブシタケを栽培・販売する会社(ホクト株式会社)のきのこ研究所です [4] 。売り手が自社の素材を調べた研究であることは、結果と一緒に置いておく事実になります。

健康な若い人の試験は、全体では差がつかなかった

対象が変わると、結果の見え方も変わります。

2023年のパイロット試験は、18〜45歳の健康な成人41人に1日1.8gをとってもらいました。1回とった60分後にはストループ課題(文字の色を答えるテストで、注意の切り替えを測る)の反応が速くなりました。28日続けたあとの主観的なストレスは下がる方向でしたが、統計的な差には届いていません [5] 。著者らは人数の少なさを挙げ、慎重に読むべきだと書いています [5] 。

2025年の試験はさらに短い時間を見ています。18〜35歳の健康な18人に、子実体エキス3g(10倍濃縮)または見せかけの薬を1回とってもらい、90分後を測りました。認知機能全体と気分の合成指標では明確な差は認められず、個別のテストのうち、小さな棒を穴に差していくペグボードの成績だけが良かったと報告されています [6] 。

サプリとしてのヤマブシタケの研究を集めた2025年の報告も、良い方向の報告がある一方で、試験の規模が小さいものが多いと整理しています [7] 。研究の内容はライオンズメインと集中力・記憶に出典つきでまとめました。

製品どうしを比べる物差しは、いま整えられている最中

ここまでの話には、前提がひとつ抜けています。目の前の製品にヘリセノン類やエリナシン類がどれだけ入っているのか、という数字です。

2026年2月に報告された研究は、原料と最終製品からヘリセノン類・ヘリセン類・エリナシンA・エルゴステロールを一度に測る手順を検証したものです [8] 。背景として、市場が広がったことで、目印になる成分を日常的に定量して品質管理を強くする実用的な方法が必要になっている、と説明されています [8] 。

言い換えると、成分量を横並びで比べる共通の物差しは、これから普及していく段階にあります。パッケージの「NGF」の3文字は、その製品に何がどれだけ入っているかを教えてくれません。

日本の売り場に並んでいる粉末は、試験と同じ1日3g

日本では、きのこメーカーのホクトがヤマブシタケの加工食品「記憶の素」を販売しています。長野県の自社工場で栽培したヤマブシタケが99%を占め、残りは微粒二酸化ケイ素とステアリン酸カルシウムです [9] 。同社は東北大学大学院薬学研究科や病院との共同研究を行い、論文を発表してきたと案内しています [9] 。

内容量は90gで、250mgの粒が4粒ずつ90包に分けられています [10] 。1袋が30日分として案内されているので、1日3包で12粒、合わせて3gの計算です [10] 。2009年の試験と同じ量で、粒の大きさも同じ250mgです。

海外から入ってくるカプセルは、多くが「エキス」です。10倍濃縮のように濃縮の倍率が書かれていたり、子実体か菌糸体かで中身が変わったりします。粉末の3gとエキスの1gを、同じものさしの上には並べられません。

ラベルで先に見るのは、部位と1日量

  • どの部位を使ったか(子実体・菌糸体・両方)を探します。研究されてきた成分は、部位によって別のものです [1] 。
  • 1日量が、乾燥粉末の重さなのか、濃縮エキスの重さなのかを見ます。人での試験で使われたのは、粉末なら1日3g [4] 、1.8g [5] といった量です。
  • もの忘れが気になる年代を対象にした試験と、健康な若い人を対象にした試験では、結果が同じではありません [4] [6] 。自分がどちらに近いかで、期待できる範囲は変わります。
  • きのこのアレルギーや、飲み合わせの注意はライオンズメイン(ヤマブシタケ)にまとめています。

記憶・集中と栄養には、ほかに研究されている栄養素も並べています。数字の出どころをたどる読み方は、アピゲニンの「寝る前50mg」でも試しました。

「NGF」は、きのこから取り出された成分が細胞と動物で見せた反応につけられた名前です。パッケージにその3文字があることと、自分がいま手に取っている粉に何が入っているかは、別の話です。確かめる順番は、まず部位、次に1日量、そのあとで研究の対象年齢です。