2026年5月、英オックスフォード大学などの研究チームが、65歳以上の40人にスペルミジンを1日6mg・13週間とってもらった試験をAging Cell誌に発表しました [1] 。6月25日には研究機関がプレスリリースを出し [2] 、6月下旬からは国内のクリニックのブログでも日本語での紹介が始まっています [3] 。

スペルミジンは、納豆や小麦胚芽に多いポリアミン(細胞の中で働く、窒素を含む小さな分子の仲間)です。記憶を調べた人での試験は栄養素のページと年齢ともの忘れのページにまとめてあり、今回の試験は対象が免疫で、量も、これまでの1mg前後より多い6mgでした。

人の試験で使われた量を並べると、0.9mgから40mgまで40倍以上の幅があります。納豆1パックに入っている量は、そのまん中あたりです。

納豆に含まれるスペルミジンもサプリのスペルミジンも、口から入ったあとは同じ腸を通って血液へ向かうという通り道を示した図
納豆に含まれるスペルミジンもサプリのスペルミジンも、口から入ったあとは同じ腸を通って血液へ向かうという通り道を示した図

2026年の試験は、何を調べたのか

参加したのは英国に住む65歳以上の40人で、新型コロナワクチンを3回接種した人たちです。3回目の接種からおよそ4週間後に、20人が小麦胚芽エキスでスペルミジン1日6mg、20人がプラセボを13週間とりました [1] 。

プレスリリースによると、3回接種しても抗体があまり作られていなかった人が参加者のおよそ25%いました [2] 。論文は、こうした低反応者の免疫細胞に老化の目印(p16という遺伝子がよく働いている、DNAの傷が多い)が集まっていたと報告しています。スペルミジンをとった側では、この目印が減り、ウイルスのスパイクに対するIgG抗体(血液中にいちばん多い型の抗体)や、一度出会った相手を覚えていて次に備える記憶B細胞の反応、ウイルスを無力化する中和活性が高くなりました [1] 。

差が出たのは、抗体があまり作られていなかった低反応者に限られました。研究を率いたKatja Simon氏はプレスリリースで「パイロット試験(本格的な試験の前に行う小規模な試験)として設計され、参加者は比較的少ない。スペルミジンが一貫してワクチンの反応を高めるか、季節性インフルエンザなど他のワクチンでも同じことが起きるかは、より大きな研究が必要」と述べています [2] 。

もうひとつ見ておきたいのは、資金の出どころです。エキスとプラセボは原料メーカーのThe Longevity Labs社が提供し、責任著者は同社とサプリ販売会社の顧問を務めています。論文には、同社が試験の設計・結果・解析・原稿のいずれにも関与していないと明記されています [1] 。

人の試験で使われた量を並べる

スペルミジンを人に飲んでもらった試験は、量がばらばらです。年代順に並べます。

  • 2018年、もの忘れの自覚がある60〜80歳の30人。小麦胚芽エキスで1日1.2mgを3か月 [5] 。
  • 2022年、同じ研究チームによる100人・12か月の試験。1日0.9mg。あらかじめ決めていた記憶の課題では、プラセボとの差がつきませんでした [4] 。
  • 2024年、50〜70歳の健康な男性37人。小麦胚芽エキスの代わりに高純度のスペルミジン塩酸塩で1日40mgを、7日間と28日間 [6] 。
  • 2026年、65歳以上の40人。小麦胚芽エキスで1日6mgを13週間 [1] 。

40mgの試験は安全性を確かめる目的のもので、血液検査の項目に差はなく、製品に関係する有害事象も報告されていません [6] 。2026年の6mgは、記憶を調べた2つの試験の5〜7倍にあたります。2022年の試験の著者らが「より高い量での検証が必要」と書いていたことを思い出すと [4] 、6mgという設定はその続きに見えます。

納豆1パックには、どれだけ入っているか

食品に含まれる量は、日本の研究グループが測っています。論文はµmol(マイクロモル)という分子の数で数える単位を使うので、ここでは重さに直して書きます。スペルミジンは1µmolが0.145mgです。

自治医科大学らの研究は、市販の納豆の平均的な値を1gあたりスペルミジン1400nmolと見積もっています [7] 。100gにすると20mg余り、1パック45gならおよそ9mgです。この研究で使われたポリアミンの多い納豆は1gあたり1880nmolで、1パックにして12mg余りでした。

納豆の量は、原料の大豆で変わります。新潟県の研究所が大豆16検体を測ったところ、生の大豆でスペルミジンは1gあたり1055〜2306nmolと、品種によって2倍以上の開きがありました。大豆の量と、それを発酵させた納豆の量には強い相関があります [8] 。発酵そのものも量を増やします。大豆を蒸す工程でわずかに減ったスペルミジンが、納豆菌による発酵で蒸した大豆より41.1%増えたと報告されています [9] 。

1日にどれだけ食べているかは、集団によって違います。この自治医科大学のグループは、日本人の平均的な摂取量を食品からスペルミジン36µmol(およそ5mg)と引用しています [7] 。デンマークの冠動脈疾患(心臓に血液を送る血管の病気)のある高齢者192人では、食事調査による中央値が1日11.5mgでした [11] 。日本の数字は食品の分析値から、デンマークの数字は食事質問票から出したもので、測り方が違います。

食事からの量と健康の関係については、イタリア北部ブルネックの住民829人を1995年から2015年まで追った観察研究がよく引かれます。食事からのスペルミジン摂取量で3つに分けると、1000人年あたり(1000人を1年間追ったときの数)の死亡は少ない群から40.5・23.7・15.1と減っていきました [10] 。食事の記録から摂取量を推定した観察研究で、飲んでもらって比べた試験ではありません。

口から入った量は、血液の中でどうなるか

ここまでの数字は、すべて口から入る量です。血液の中の量は、それとは別に動きます。

40mgの試験は、血液(血清)と尿のポリアミン濃度も測っていました。28日間とっても大きくは変わらず、著者らは体が濃度を一定に保つ仕組みが働いたためとみています [6] 。

納豆でも同じことが起きました。40〜69歳の男性30人が、ポリアミンの多い納豆を1日1〜2パック、12か月食べ続けた研究です。スペルミジンの摂取量は1日およそ14mg増えたのに、血中のスペルミジンは増えていません。上がったのは、体内でスペルミジンから作られるスペルミン(ポリアミンの仲間)のほうで、12か月で開始時の1.12倍でした [7] 。

2026年のデンマークの研究は、この関係を192人で調べています。食事からの摂取量が2倍になるごとに、血漿(血液から細胞を除いた液体)の濃度は18%高いという、ゆるやかな関連でした。骨格筋(体を動かす筋肉)の中の濃度は、摂取量とも血漿の濃度とも関連していません [11] 。

スペルミジンは食べ物から入るほかに、体の細胞が自分で作り、腸内細菌も作っています [13] 。入り口が複数あって、細胞の側が濃度を調節しているとすれば、飲んだ量が血液の値にそのまま出ないのは不思議ではありません。血液の中のスペルミジンの値は、飲んだ量を測る目盛りとしては使いにくい、というのがここまでの研究から言えることです。

2026年7月に出た総説は、こうした研究を整理したうえで、人での臨床試験へ進める段階にあると位置づけています [12] 。人での試験がこれから積み上がる段階です。

売り場で確かめる目安

  • 1日量のmg表示。人の試験で使われたのは0.9〜6mgで、40mgは安全性を確かめただけの量です [1] [4] [6] 。
  • 原料。人の試験の多くは小麦胚芽エキスで、小麦アレルギーのある方は原材料の表示を確認してください。
  • ワクチンの反応を高める目的で飲む段階ではないこと。研究者自身が、より大きな研究が必要だと述べています [2] 。

持病のある方、薬を飲んでいる方、妊娠・授乳中の方は、飲み始める前に医師・薬剤師にご相談ください。

この記事で確かめた数字

  • 2026年の試験は65歳以上の40人、小麦胚芽エキスで1日6mg・13週間。差が出たのは抗体があまり作られていなかった低反応者に限られる [1] [2]
  • 記憶を調べた試験は1日1.2mg(30人・3か月)と0.9mg(100人・12か月)。後者は主要な評価項目で差がつかなかった [4] [5]
  • 高純度スペルミジン1日40mgを28日間とっても、血清と尿のポリアミン濃度は大きく変わらなかった [6]
  • 市販の納豆は1gあたりスペルミジン1400nmol(1パック45gでおよそ9mg)。日本人の平均摂取量は食品から36µmol(およそ5mg) [7]
  • 大豆の品種で1gあたり1055〜2306nmolと2倍以上の開きがあり、発酵で41.1%増える [8] [9]
  • 納豆を1日1〜2パック・12か月食べても血中のスペルミジンは増えず、スペルミンが1.12倍になった [7]
  • 食事からの摂取量が2倍になるごとに血漿の濃度は18%高い。骨格筋の濃度は摂取量と関連しない [11]

納豆1パックのおよそ9mgは、人の試験で使われた量のまん中あたりにあります。サプリを足す前に、まず食事からとっている量を数えてみると、自分がすでにどのあたりにいるかが見えてきます。

成分そのものの説明はスペルミジンに、記憶を調べた2つの試験は年齢ともの忘れとスペルミジンにまとめています。