2026年1月、健康食品業界向けの日本語ニュースが、クレアチンを配合したグミの新製品が2025年から2026年にかけて欧米で急に増えていると伝えました [1] 。検索数もブランド数も伸びています。ただし同じ記事は、市場全体に占める割合はまだ小さく、クレアチン製品の主流が粉末である状況は変わっていない、とも書いています。

飲みやすさではグミに分があります。それでも粉末が主流であり続けているのは、クレアチンという成分が水分と温度の影響を受けやすいためです。

乾いた粉の状態と、水の中に置かれた状態で、クレアチンの変わりやすさが違うことを示した図
乾いた粉の状態と、水の中に置かれた状態で、クレアチンの変わりやすさが違うことを示した図

体の中でも、毎日クレアチニンに変わっている

まず体の中の話から。

クレアチンは筋肉と脳にたくわえられますが、体内に蓄積されたままではありません。毎日いくらかがクレアチニンという別の物質に変わり、尿に出ていきます。この変化は不可逆で、クレアチニンからクレアチンには戻りません。

2026年、Nutrition Reviews誌に、成人のクレアチンの摂取目安を計算した技術報告が載りました [2] 。1日に失われる量を、体重1kgあたり男性で20mg、女性で15mgと見積もっています。体重75kgの男性ならおよそ1.5gです。このうち73%は体内で作り直され、残る27%を食事から得ている、という計算になります。

そこから逆算した目安量は、男性で1日およそ400mg(体重75kg)、女性でおよそ240mg(体重60kg)。肉・魚・乳製品を食べていれば多くの人は足りるが、菜食の人や高齢者では不足しうる、とも書かれています。ただしこれは著者が提案した値です。日本を含め、どこかの国が公的な摂取基準として採用したものではありません。

ここで押さえたいのは、量の提案そのものより「クレアチンはクレアチニンに変わる」という反応のほうです。同じ変化は、体の外でも起きます。

水気があると、置いてあるだけで進む

2009年、ミネソタ大学の食品科学のグループが、保存中のクレアチンがどれくらいの速さでクレアチニンに変わるかを測りました [3] 。温度は4℃・23℃・35℃の3通り、水分活性は0.31から0.983までの範囲です。

水分活性は、その食品に水が何グラム入っているかを表す数字ではありません。まだ自由に動ける状態で残っている水がどれだけあるか、を表します。0に近いほど乾いていて、1に近いほど微生物や化学反応に利用されやすい水が多い状態です。乾いた粉は低く、グミのようにやわらかいものは高くなります。

結果は、水分活性が高いほど、そして温度が高いほど、クレアチンが速く減るというものでした。半減期は水分活性が高いほど短くなり、温度による速さの変わり方はアレニウスの式にしたがっています。あわせて論文は、結晶(粉)の形のクレアチンは、湿気を吸って溶け出すところまで至らないかぎり非常に安定だ、と書いています [3] 。

粉のうちは、反応の相手になる水がほとんどありません。粉が湿気を含んだところから、クレアチンは減りはじめます。

溶かして置いたら、45日で9割

では、溶かしたらどれくらい減るのか。

2003年の研究が、発泡性のクレアチン製剤(ジクレアチンクエン酸塩)を水に溶かし、室温25℃と冷蔵4℃に45日間置いて濃度を追っています [4] 。45日後には、室温で約90%、冷蔵でも約80%のクレアチンが分解しました。冷蔵したほうは7日目から結晶が出てきて、調べるとクレアチン一水和物だったと報告されています。

45日は実際の飲み方からすればかなり長く、この数字を「シェイカーに一晩置いたら何%減る」に読み替えることはできません。速さは温度や液の性質で変わります。それでも向きははっきりしています。溶かした状態は、粉の状態より減りやすいということです。

影響がいちばん大きいのは温度

2025年には、ブラジルのカンピーナス大学のグループが、市販のクレアチンにさまざまな条件をかけて何が起きるかを調べました [5] 。加熱は60℃から200℃、ほかに紫外線、pH 3・8・13、そしてコーヒー・オレンジジュース・エナジードリンクに溶かす、という条件です。

赤外分光で見たかぎり、安定性にいちばん大きく影響したのは温度でした。質量分析ではいくつもの分解物が見つかり、溶かす飲み物ごとにパターンが違っています。pHについては、アルカリ性で目立つ分解物が出た一方、酸性では検出されませんでした。著者らは、クレアチンからクレアチニンへの変換だけを見ていても分解の全体像はつかめない、と結んでいます。

グミは、水とゼラチンなどを混ぜて加熱し、型に流して固めて作ります。クレアチンが影響を受けやすい水分と熱に、製造工程でさらされることになります。冒頭のニュースが「過去には表示量と実際の含有量の乖離が問題視された例もある」と書き、品質管理と含有量の透明性を今後の競争軸に挙げていたのも、ここに理由があります [1] 。

保存の温度を、日本の夏に置き換えると

保存の話を日本に置き換えてみます。

気象庁の平年値(1991〜2020年)では、東京の8月の平均気温は26.9℃です [6] 。これは屋外で測った気温で、エアコンを切った部屋や日の当たる棚の上はこれより高くなることもあります。2009年の研究が使った23℃と35℃は、日本の夏の置き場所としてありえない温度ではありません。

そのうえで、家でできることは3つに絞れます。

  • 粉のまま、密閉して、涼しく乾いたところに置く。開け閉めのたびに湿気が入るので、袋の口を折るよりふたのある容器のほうが扱いやすくなります。
  • 溶かしたら早めに飲む。前の晩にシェイカーで作り、翌日まで持ち歩く保存は避けたほうがよいでしょう。
  • 熱い飲み物に溶かさない。コーヒーに混ぜる飲み方は手軽ですが、温度は分解をいちばん強く進める条件でした [5] 。

グミやドリンクを選ぶときは、1回分に何mg入っているかの表示と、それを製品の状態で確かめた検査の結果が公開されているかが判断材料になります。表示のmgは配合した量であって、口に入るときの量とは限りません。

飲む量やタイミングそのものはクレアチンの効果と飲み方ガイドで整理しています。持病のある方、薬を飲んでいる方、妊娠・授乳中の方は、利用前に医師にご相談ください。

この記事で確かめた数字

  • 体の中で1日に失われる量は体重1kgあたり男性20mg・女性15mgと見積もられ、そこから提案された目安量は男性およそ400mg・女性およそ240mg(公的な基準ではありません) [2]
  • 保存中の分解は、水分活性が高いほど、温度が高いほど速い [3]
  • 結晶(粉)の形なら、湿気を吸って溶け出さないかぎり安定している [3]
  • 溶かした液では、45日後に室温で約90%、冷蔵でも約80%が分解した例がある [4]
  • 加熱・紫外線・pH・飲み物を比べた2025年の分析では、温度の影響がいちばん大きかった [5]

グミやドリンクが粉末に取って代わるかどうかは、飲みやすさよりも、作ってから口に入るまで中身がどれだけ保つかを示せるかで決まりそうです。

成分そのものの説明はクレアチンにまとめています。